# 効率化するほど忙しくなるのはなぜか 『限りある時間の使い方』を読む
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はじめに
ToDo リストを片付けても、やることは減らない。生産性ツールを入れても、時間に追われる感覚は変わらない。そういう経験がある人は多いと思います。
人の寿命を 80 年とすると、週に直してだいたい 4,000 週です。オリバー・バークマン『限りある時間の使い方』 (原題: Four Thousand Weeks: Time Management for Mortals)は、この数字を出発点にした本です。
一般的な時間術は「同じ時間でより多くをこなす」ことを目指します。この本はその前提を疑い、時間を思いどおりにしようとするのをやめて、限られていることを受け入れる方向を勧めます。以下、本書の考え方を 5 つに分けてまとめます。
1. 効率化するほど忙しくなる
効率を上げればいつか仕事が片付き、自由な時間ができる。本書はこの期待を「効率化の罠」と呼び、実際にはそうならないと指摘します。
- メールに早く返信すると、相手からの返信も早く来て、やりとりの総量が増える
- 仕事を早くこなすと、もっと頼める人だと思われて、仕事が増える
歴史家ルース・シュワルツ・コーワンの『More Work for Mother』によると、洗濯機や掃除機が普及しても主婦の家事時間は減りませんでした。機械が入ったぶん「清潔」の基準が上がり、洗濯の回数が増えたからです。
パーキンソンの法則(仕事の量は、完成までに与えられた時間を満たすまで膨らむ)も同じことを言っています。効率化で時間を空けても、「やるべきこと」の範囲がそれに合わせて広がります。
つまり、効率化で生まれるのは空き時間ではなく、次の仕事です。全部をこなすという目標自体が成り立たない、と認めるところから本書は始まります。
2. 時間は思いどおりにならない
本書は、哲学者ハイデガーの考えを引いて、人間は時間を持っていて使う存在ではなく、生まれてから死ぬまでの限られた時間そのものだ、と説明します。時間が足りないと感じるのは、私たちがもともと有限だからです。
哲学者ベルクソンは、人はひとつの道に決めるより、決めずに迷っているほうを好むと書きました。頭の中の未来はどれも同じくらい魅力的に見えるからです。私たちは選択肢を減らすのが怖くて、退路を断つのを避けようとします。それでも、いざ退路を断ってしまえば、たいていはそれでよかったと思える、と本書は言います。
著者はさらに「宇宙的無意味療法」という考え方を出します。宇宙や歴史の長さから見れば、自分の悩みも成果も小さなものです。これを悲観ではなく、「全部やり遂げなくていい」という気の楽さとして受け取ろう、という提案です。
3. やることを減らす 3 つの原則
全部やるのをあきらめたら、次はやることを絞ります。本書から 3 つの原則を挙げます。
大事なことを先にやる。仕事が片付いて時間が余ったら好きなことをやろう、と考えていると、その時間は来ません。自分にとって大事なこと(書く、読む、家族と過ごすなど)は、先に予定に入れておきます。準備が整うのを待たず、不完全でも始めます。
同時に進める仕事を 3 つまでにする。進行中のプロジェクトは 3 つまでにして、どれかが終わるか、やめると決めるまで、新しいものには手をつけません。
中くらいの優先度を捨てる。やりたいことを 25 個書き出したら、上位 5 つだけを残し、残りの 20 個はやらない、という「25/5 ルール」が紹介されています。優先度が低いものは捨てやすいですが、そこそこ魅力のある中位のものが、上位 5 つの時間をいちばん奪います。
4. 不快さと失敗を受け入れる
完璧を目指したり失敗を恐れたりすると、手が止まり、先延ばしになります。本書はここで考え方を変えることを勧めます。
どこで失敗するかを先に決める。時間にも体力にも限りがあるので、全部の領域で満点は取れません。たとえば「この 2 か月は仕事は最低限にして、子どもの世話を優先する」のように、手を抜く領域を先に決めておけば、後ろめたさを抱えずに済みます。
楽な道より、自分を広げる道を選ぶ。心理療法家ジェイムズ・ホリスは、迷ったときに「どうすれば幸せになれるか」ではなく、「この選択は自分を小さくするか、大きくするか」と問うよう勧めています。
短く区切って、毎日続ける。心理学者ロバート・ボイスの研究では、生産的で成功している学者ほど、1 日の執筆時間が短かったそうです。短い日は 10 分程度、長くても 4 時間を超えず、週末は休んでいました。本書は、50 分やると決めたら 51 分はやらない、と勧めます。もっと書きたくても途中でやめることで、翌日また戻ってこられます。
やることが山積みでも、できるのは目の前の次の一歩だけです。逆に言えば、それだけやればいい、ということでもあります。
5. 今を将来のための準備にしない
休日まで筋トレや資格の勉強に使い、余暇を将来への投資にしてしまう人は少なくありません。
本書は経済学者ケインズの文章を引いています。ケインズによれば、目的志向の人は行動の意味をいつも未来へ先送りし、それで死から目をそらしています。そういう人にとって「ジャムとは明日のジャムであり、けっして今日のジャムではない」。先送りを続けるかぎり、今日のジャムを味わうことはありません。
著者の言葉でいえば、「あなたの日々は、完全無欠の未来のための準備期間ではない」のです。
趣味は役に立たなくてかまいません。編集者のカレン・リナルディは、初めて波に乗れるまで 5 年かかり、コスタリカに土地を買うほどサーフィンにのめり込んでいますが、腕前は下手なほうだと本人が言っています。上達のためではなく、下手なまま楽しむためにやっているのです。
また、問題がひとつもない状態を目指しても、生きているかぎりそこには着きません。問題を全部片付けることをゴールにせず、目の前の問題に取り組むこと自体を生活として受け入れよう、と本書は勧めます。
おわりに
タスクを全部終えて、何にも追われない日は来ません。どれだけ道具を工夫しても同じです。
著者は人生の短さを「ものすごく、バカみたいに短い」と書いています。それでも、4,000 週しかないと認めるのは、あきらめることとは違います。最初から全部できるはずがなかった、とわかれば、そのぶん気が楽になります。そのうえで、限られた時間を自分が大事だと思うことに使えばいい、というのがこの本の主張です。
準備が整うのを待たずに、今日できる次の一歩をひとつ選んでみてください。