# 「分かった!」と思わせる説明の技術 知識ゼロの相手にも伝わるようになる本
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この記事は、書籍「「分かった!」と思わせる説明の技術 知識ゼロの相手にも伝わるようになる本」の内容を、NotebookLM がまとめたものです。
知識ゼロの相手にも「分かった!」を届ける説明の技術
本書は、専門的な知識を持つ人が、その知識を持たない相手(非専門家)に対し、いかにして「分かった!」という確かな理解を促すか、そのための心構えと実践的なノウハウを余すところなく解説した一冊です。
著者は、インターネット上で1万語以上ものIT用語解説を掲載する「わわわIT用語辞典」を運営する佐々木真氏です。著者が「説明が分かりやすい人」と評価されたのは、ITの専門家からではなく、ITが苦手だと感じる非専門家たちからの評価によるものです。本書には、この1万回以上の試行錯誤を通じて得られた、聞き手の負担を減らすための技術が詰まっています。
第1部:分かりやすい説明の「哲学」
1. 分かりやすい説明の定義:聞き手に楽をさせること
本書では、分かりやすい説明を「聞き手の負担が少ない説明」と定義しています。
良い説明には「伝わる情報量が多い」「伝わる情報の質が高い」「聞き手の負担が少ない」という3つの条件があります。このうち最も優先して満たすべきは「聞き手の負担が少ない」ことです。なぜなら、負担が一定量を超えると、相手はそもそも説明を「聞いてもくれない」という事態になるからです。
分かりやすい説明の本質は「聞き手に楽をさせる」ことにあり、そのために欠かせない視点が「おもてなしの視点」です。
2. 「おもてなしの視点」とは
「おもてなしの視点」とは、以下の2つの行為を指します。
- 相手を見る。
- 相手の目線で考える。
この視点を持つことで、擬似的な読心術が使えるようになり、相手の状況や立場に寄り添った説明ができるようになります。
第2部:説明を成功させるための心構え
1. 最初のハードル:まず「聞いてもらう」
どれだけ素晴らしい説明であっても、聞いてもらえなければ意味がありません。説明が伝わるための最初のハードルは「聞いてもらう」ことです。
聞き手の「聞く理由」を用意する
説明を聞いてもらうためには、話し手側の都合である「説明する目的」ではなく、聞き手が納得できる「説明を聞く理由」を提示する必要があります。 理由を考えるポイントは、以下の2点です。
- 聞き手は得をするか?(損を避けられるか?):これを聞くことで「得する」「損を避けられる」と思ってもらう。
- 聞き手が説明を聞く真の目的は何か?:説明を理解すること(中間ゴール)の先に、上司への的確な報告や顧客の納得など、本当の目的があるはずです。その最終目的に近い「聞く理由」を用意するほど、聞き手は興味を引かれます。
第一印象で「簡単そう」と思わせる
説明も人も第一印象が重要です。特に非専門家への説明では、「聞いても分からなそう」と思われた時点で、理解しようというモチベーションが下がります。 できるだけ簡単そうに見せる工夫(絵や図を多用するなど)が必要です。
好感度の確保:「嫌われていない」程度で良い
人は好きな人の話を聞きたがります。無理に好かれようとしなくても、最低限「嫌われていない」程度の好感度を目指すことが重要です。 専門家が非専門家相手に説明する際は、「これくらい知っているだろう?」という態度(専門用語の使用など)は避けるべきです。非専門家は専門用語を知らないのが当然なので、「知らないのが当然」という空気感を演出し、親しみやすさをアピールするほうが、前向きに聞いてもらえます。
2. 割り切りの心構え:「正確な説明は諦める」
専門家が非専門家に説明するのが難しいのは、聞き手の持つ前提知識が少ないため、説明しなくてはならない情報量が多すぎるからです。
この難題に挑む上での最大の心構えは、「正確な説明は諦める」という割り切りです。 「難しいこと」を「簡単」かつ「正確」に説明することは不可能です。分かりやすさ(簡単さ)を優先するなら、「正確さ」を犠牲にする覚悟が必要です。
この「正確さを諦める」の真意は、聞き手の負担を減らすために、伝える情報量を減らす「端折る」作業を徹底することです。
第3部:聞き手の「分かった!」を引き出す実践テクニック(極意)
ここからは、聞き手の「分かった!」を引き出すための具体的な実践テクニックを、例を交えながら詳細に解説します。
極意 ①:端折る(情報量を減らす)ことで簡単にする
情報量が多い、または構造が複雑な「難しいこと」を分かりやすくするには、「端折る」作業が絶対に必要です。
例:情報量の削減
話の本筋に影響がないと思われる部分、特に修飾語や詳細な情報を削り、情報量を減らします。
- (端折る前)「ケーキは飲食物だと、大学生兼社長である彼女は熱く主張したが、それは違う。ケーキは液体ではなく固体だからだ」。
- (端折った後)「ケーキは飲食物だと、彼女は主張したが、それは違う。ケーキは固体だからだ」。
端折るための手順(理屈としての流れ)
- 分ける:伝えたい情報のかたまりを、気の向くままに細かく分解します。
- 捨てる:分解した情報の中から、伝えなくても良い情報、特に修飾語を重点的にチェックして捨てます。この「捨てる」作業には、「不完全になること」を恐れない勇気が必要です。
- 再構成する:残った情報をつなぎ合わせ、必要に応じて言い回しや語順を調整して自然な文章に戻します。
実践的な端折り方:「一言で説明すると?」作戦
口頭での説明など、手順を踏む余裕がない場合は、「一言で説明すると?」作戦が有効です。
- 「幹」の作成:複雑な内容でも無理やり一言で説明しようとします。この一言が、伝えるべき情報の「幹」(最も重要な情報)になります。
- 例:苺ショートケーキについて → 幹:「苺ショートケーキは、ケーキである」。
- 「枝葉」の追加:幹となる説明に、必要な枝葉となる情報を足して、説明を完成させます。
- 例:枝葉:「苺がのった」「花子さんが好きな」「お手頃価格の」など。
- 再構成:相手が知りたいことに合わせて枝葉を選び、「苺ショートケーキは、苺がのった、お手頃価格の、ケーキである」のように完成させます。
端折る方向性:「狭める」と「薄める」
端折る方向性には「狭める」と「薄める」の2つがあります。
- 狭める:伝えたい構成要素(AとB)のうち、**片方(Aだけ)**を説明すること。説明を途中で止めれば達成できる、比較的簡単な方法です。
- 薄める:構成要素(AとB)の両方を説明するが、中身を端折ってA’とB’に加工してから伝えること。
- 例:元の文章(AとB)を、それぞれA’とB’に簡略化(薄める)して両方伝える。
極意 ②:繰り返して記憶に刷り込む
人は忘れる生き物であるため、同じ内容を繰り返し伝えて、聞き手の記憶に刷り込む必要があります。
「しつこい」と思わせない工夫
聞き手に「また同じことを言っている」と悟られないように繰り返すことが重要です。
- 言い方を変える:表現を変えることで「同じことを言っている」という印象を薄めます。
- 例:1行目で「答えは『聞き手の負担が少ない説明』です」と伝えた直後に、2行目で「本書では『聞き手の負担が少ない説明』を分かりやすい説明と定義しています」と、表現を変えて繰り返す。
- タイミングを変える:時間を空け、聞き手の記憶が薄れた頃合いを見計らって繰り返します。これにより、「ああ、そういえば前に聞いたな」と思い出してもらう効果が期待でき、記憶に定着しやすくなります。
- 誰が説明するかを変える(裏技):自分が説明した内容を、他の人(同僚や先輩など)に頼んで間接的に繰り返して伝えてもらうことで、聞き手に「しつこい」と思わせるリスクを減らせます。
極意 ③:ハッタリをかまして印象を操作する
説明は話し手と聞き手の共同作業であるため、成功には聞き手側の「説明を理解しよう」というやる気が必要です。聞き手に「自分でも分かりそう」という期待感を持たせるため、印象操作に「ハッタリ」を活用します。
ハッタリには以下の3種類があります。
- 「この説明は簡単だ!」とハッタリをかます(説明自体の印象操作)
- 簡単な言い回しを使う:「行う」ではなく「する」、「変更する」ではなく「変える」など、平易で平坦な言い回しを使います。また、意図的に会話調を使うことで、砕けた印象を与え、「肩ひじ張らずに読める」空気感を演出します。
- 絵や図を多用する:文字が詰まっていると「難しそう」と判断されがちです。文字で全て説明している場合でも、絵や図を入れて文字の詰まりを回避し、簡単そうに見せる工夫をします。
- 「あなた(聞き手)なら分かる!」とハッタリをかます(聞き手の印象操作)
- 「分かった」を積み重ねる:「自分はバカだから聞いても分からない」と思い込んでいる聞き手に対し、「分かった」という成功体験を積み重ねてもらうことが効果的です。
- 例(DNSの説明):「わわわIT用語辞典」では、本題のDNS(ドメイン名とIPアドレスの対応を管理する仕組み)の説明に入る前に、予備知識であるIPアドレスやドメイン名の意味を先に説明します。これにより、1回の説明の中で複数回「分かった」という経験を提供し、「自分でも分かるかも」という自信を引き出す効果を狙っています。
- 「私(話し手)は説明が上手い!」とハッタリをかます(話し手の印象操作)
- 実績や評価をアピールすることで、「多分分かりやすい説明をする人だろう」と思ってもらう効果を狙います。ただし、説得力を高めるには、自分で言うよりも他人からの評価(他己紹介)として伝える方が効果的です。
極意 ④:相手の解釈から逆算する
説明の成否は、聞き手がその内容をどのように「解釈する」かに懸かっています。解釈の仕方は、伝え方や周囲の状況によっても変わり得ます。
期待通りに解釈してもらうために、説明を組み立てる上での出発点として「どう解釈してもらいたいか?」を据えることが重要です。
- 逆算の手順:「どう解釈してもらいたいか?」から逆算して、「何を伝えるか?」(情報の中身)や「どう伝えるか?」(伝え方)を決めます。
この「解釈から逆算する」意識は、おもてなしの視点を発揮し、相手の解釈を予想することに他なりません。これが習得できれば、説明の達人と言えるでしょう。
第4部:おもてなしの視点を活かす表現技術
おもてなしの視点を説明に活かすためには、細かな工夫を積み重ねる(神は細部に宿る)ことが基本方針となります。聞き手が「咀嚼できる」ように、内容と表現を単純化することが重要です。
1. 内容と表現の単純化
複雑な事柄を分かりやすくするために、内容や表現を単純化します。
- 抽象化する:内容を大雑把な言い方(抽象的な表現)に変えることで、情報量を減らします。
- 例:IT用語が「機能、技術、仕組み」といった複数の意味を持つ場合、それらをまとめて「〜するやつ」と表現することで単純化します。
- 擬人化する:人以外のものを全て「人」にたとえることで、どんなに複雑な事象も「人」として扱う単純化の手法です。
- 実践例:名詞の後ろに「さん」を付ける(例:「DNSさん」「IPアドレスさん」)ことで、擬人化が完了します。
- 固有名詞を減らす:聞き手が知らない固有名詞が多いと混乱するため、伝えなくても問題ない固有名詞は伝えないようにします。
- 例:「哲学者のニーチェ」を「どっかのおっさん」に置き換えて固有名詞の情報を削ることで、伝えたい内容(例:「神は死んだ」という言葉自体)を際立たせることができます。
2. 表現の調整(簡単な言葉に置き換える・寄せる)
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簡単な言い方に置き換える: 同じ情報でも、難しく堅い言い方より、簡単な言い方の方が分かりやすいです。
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「1文字削る」意識を持つ: 伝えたい内容やニュアンスが変わらない範囲で、1文字でも削る意識を持つことで、相手の労力を減らします(短いは正義)。
- 例:「ケーキ作りのの勉強をする」ではなく「ケーキ作りを勉強する」。
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「ことができる」撲滅運動: 「〜することができる」という表現を「〜られる」に置換することで、大幅に文字数を削減できます。
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相手が使う言葉に寄せる: 聞き手が知っている表現を使った説明の方が伝わります。非専門家には専門用語を使わないのが理想です。
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過去の自分に寄せる: 専門家になる前の「専門家ではなかった自分」が理解できた語彙や表現を思い出し、それらに寄せて説明します。
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身近な他人に寄せる: 専門分野に詳しくない家族や友人など、身近な人の言葉遣いに寄せて説明することで、他者目線でのフィードバックを得られ、効果を検証できます。
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たとえ話(比喩)の活用: たとえ話は「相手の言語による説明」であり、相手に前提知識がない場合に、相手が知っている何かにたとえて説明する次善策です。ただし、上手に使えれば絶大な効果がありますが、失敗すると相手を混乱させる「劇薬」です。たとえ話が成功するには、話し手が伝えた本質を、聞き手がたとえ話から正確に取り出せることが必要です。
第5部:説明を持続させるために
説明は話し手と聞き手の共同作業であり、話し手である自分自身が元気でいる必要があります。
「100点満点の説明はできない」と割り切る
完璧な説明を目指すと疲弊し、説明が嫌いになってしまいます。誰でも分かる説明は存在しないこと、「全部伝えられなくても仕方ない」こと、「ダメ出しされない説明は無理」であること を割り切りましょう。
自分自身に「おもてなしの視点」を向ける
他人を「おもてなし」するのと同じくらい、自分自身に「おもてなしの視点」を向けて、自分を大切にしましょう。完璧を目指して疲弊するよりも、自分を甘やかして長く続ける方が、結果として上達し、より多くのものを得られます。
例:著者は、辞書運営において、誤りや誤字脱字があっても「仕方ない」と割り切り、自分が書きたいように書くことで、10年以上継続しています。
聞き手に頼り、甘える
説明の成否に関する責任を自分だけが背負い込む必要はありません。困ったら、聞き手に質問したり相談したりして、相手にも一緒に頑張ってもらいましょう。
最終的な注意点:分かりやすい説明のリスク
分かりやすい説明は必ずしも最良とは限らず、いくつかの問題が生じる可能性があります。
1. 「理解した」と勘違いさせる危険性
分かりやすい説明は、情報が端折られているため、聞き手が不完全な知識なのに「完全に理解した」と勘違いしやすくなります。聞き手の将来のために、「これは正確さを犠牲にした説明であり、きっちり理解したわけではない」と釘を刺しておく必要があります。
2. 同業者との衝突
分かりやすい説明のために「端折る」作業は、人によって「何を重要と見なすか」の判断が分かれるため、意見の合わない同業者との解釈の違いによる衝突を招きやすいです。これに対しては、事前に対応方針を決めておくことが重要です。
3. 目的に合致しなくなる
「分かりやすい説明」はあくまで手段であり、目的ではありません。分かりやすさを追求しすぎて、部下を育てる、商品を売るなどの本当の目的を見失わないよう注意が必要です。
本書を通して著者が最も伝えたいことは、「おもてなしの視点」を持つことです。相手の利益を優先することで、あなたの説明は分かやすくなるだけでなく、あなた自身を守ることにもつながります。